診療方針

大学在学中にある教授がこのようなことを言いました。
「医者になった以上、離れ小島で君一人しか医者が居ない状況の中で、診療しなければならなくなったと考ろ」という言葉でした。確か、内科の診断学の講義を受けている時の言葉でした。この時、この言葉は身の毛もよだつ程の恐怖を与えました。しかし卒業してインターンになると、この言葉を思い出させる状況に早速遭遇することになりました。当時インターンにも診療が許されていました。救急病院の当直をしていた時、交通事故で急患が運ばれて来ました。頼める医師は不在でした。結局一人で処置しなければならない羽目に陥りました。看護婦は、このインターンで大丈夫かしら、と言う顔付きです。意を決して、出血部位を縫合して、治療が終わった時、あの言葉が頭に浮かびました。離れ小島でなくとも、医者は常に一人で決断しなければならない事があることに気付きました。この話は今から約50年も前の事です。
開業するまで18年間、私は月1回は必ず、ある救急病院の当直をしていました。毎回救急車が怪我人を運んで来ました。ある時、これも40年くらい前の事、一度に4人の怪我人が運こばれて来たことがありました。 一人は既に息をしていませんでした。一人は意識が無く、耳から出血が見られました。恐らく頭蓋底骨折でしょう。一人は強い腹痛を訴えていました。後一人は頭や顔から血が出ていました。窓ガラスに頭をぶつけたようでした。救急隊員に至急、脳神経外科の病院を探すように指示し、腹を痛がっている患者の腹腔穿刺をしたところ、血液が吸引されました。明かに腹腔内損傷です。至急開腹手術が必要でした。そこの病院は整形外科の手術しか出来ません。この患者も開腹可能な施設に転院させなければなりません。救急隊の活躍で、一人は脳神経外科病院がひき取ってくれ、腹部外傷の患者も大学病院が引き取ってくれることになり、2台の救急車が患者を運んで行った後、ようやく顔面外傷の患者の治療を開始しました。一つ一つ創内にガラスの破片が入っていないか確認しながら縫合作業が続き、その夜は一睡も出来ませんでした。その後あ転院させた2人の患者のことが気になり、救急隊に調べてもらいました。頭部外傷の患者はやはり助からなかったとの事でした。腹部外傷の患者は肝の損傷で、危機一髪で、助かったとの事でした。救急病棟はまさに戦場です。一瞬の判断で、直ぐ、行動しないと助けることが出来ません。
医師は常に、離れ小島で一人で診療に当たるのと同じだ。というのが私の診療方針です。決断を誤ると患者は重篤な状態に陥ることを、常に肝に銘じています。現在の医療情勢は昔とは全く違っています。先ず患者の安全が最優先されます。大学を卒業したばかりの研修医に見てもらおうという患者もいません。インターン制度は廃止され、変わって研修医制度の下で、医師の卒後研修が行われる時代になり、研修医が一人で治療に当たることは無いと聞きます。必ず指導医の立会いの下で医療が施されています。今の医師は卒業して2年間は、離れ小島的診療することはありません、その後も必ずチームで医療が行われます。最近の医師は開業して初めて、離れ小島医療を体験することになります。しかし現在、開業医にこのような患者が運ばれてくることはまずありません。しかし、ただ、血が出ているかいないかの違いであって、医師が一人で、難しい決断をしなければならないことは今も昔も変わりありません。今は病診連携が整っています。開業医に求められる、最も重要なことは的確な判断です。癌やその他重篤な疾患は考えられないだろうか。そのような兆候が少しでも認められたら専門医のいる病院に紹介する必要があります。そこで重篤な疾患では無いと診断されても良いのです。
診断は当院の検査ではつけられない場合もあります。しかし泌尿器科領域の疾患は診断は比較的容易です。最も頭を煩わせる問題は前立腺癌です。PSA検診は現在市町村だけでなく、人間ドックや会社の検診でも簡単におこなわれる癌検診です。嘗ては前立腺の触診で癌の有無を疑っていましたが、今は触診で発見される癌は、既に進行癌と診断されます。PSAが高くとも触診では、どこに癌病巣があるか全く分かりません。結局、生検を行うよりほか確定診断が下せないのです。しかもその生検で癌が発見される確率は30~40%です。60~70%の人からは癌が見付からないのです。生検で癌が発見されなかった人のPSAが、又徐々に高くなっ来ても、もう一度検査を受けましょうと言うのは、非常に心苦しく、勇気がいります。
開業医は一般社会人の健康管理を行うのが主な業務です。高血圧、高脂血症、糖尿病で仕事が出来ない人は先ず、ありません。生活習慣病と呼ばれるこれ等の疾病には症状がありません。しかし放置すると、脳血管障害、心臓病、腎不全による透析、失明等非常に重篤な障害を残す疾病に発展します。もちろん高齢化は、即ち、動脈硬化を意味します。この状態の悪化する速度を出来るだけ抑えよう、というのが我々開業医に託された重要な業務なのです。
多くの人は、出来れば専門医で見てもらいたいという願望があるのは当然です。しかし多くの人が病院を受診したら、病院は重症患者の治療が出来なくなります。又仕事を持っている一般社会人が、頻回に、時間をかけて病院を受診するわけには行きません。役割分担が必要なのです。今、医療保険制度上では、大病院の外来患者の受診制限する施策が進められています(かかりつけ医制度)。病院によっては紹介状が無いと診療を断られることもあります。各病院共に病診連携が積極的に進められています。当院はこの地域の、ほとんどの大病院と連携しております。病院だけではありません。開業している先生の中でも、病院で長く診療されて専門知識に詳しい人が多くいます。専門家の診断を仰いだ方がいいと考えれば先ず、その医院に紹介することがあります。その先生が更に大病院の専門科に紹介してくれることで、患者さんは安全で、寄り道が無く、出来るだけ早く、専門的な治療を受けることが出来ます。
私は開業と同時に専門医資格を返上しました。専門医資格があるからと言って、診療報酬が高くなることはありません。専門医資格を維持するためには学会参加や論文提出の義務も課せられます。開業医が論文を書けるはずがありません(中には立派な研究をしている人も居りますが)。専門医の資格を返上しても私が泌尿器科医である事に変わりありません。現在、他の医院から紹介される患者の多くが、尿潜血陽性の患者です。やはり癌や結石、又腎炎か否かの診断が重要です。これくらいなら開業医レベルで十分対応することが可能です。次いで尿閉の患者、または留置中の患者でカテーテル挿入が困難になった症例が紹介されて来院することがあります。最近では患者が泌尿器科の診療内容を調べて自発的に来院することが多くなりました。

当院で診断可能な疾患について(泌尿器科疾患)

  • 排尿障害

    排尿困難 前立腺肥大症、尿道狭窄
    膀胱機能障害 頻尿、尿失禁、過活動膀胱
  • 尿路悪性腫瘍

    前立腺癌、膀胱癌、腎癌、腎盂尿管癌、精巣腫瘍、陰茎癌
  • 尿路感染症

    急性膀胱炎、急性腎盂腎炎、前立腺炎、副精巣炎、性病
  • 尿路結石

    尿管結石、腎結石、膀胱結石
  • 腎機能障害

    慢性腎炎、のう胞腎、糖尿病性腎症他
  • ED(勃起不全)

  • 泌尿器に関係のある皮膚疾患

  • 夜尿症

  • その他の泌尿器科疾患